対談[3] 「アスルクラロ沼津」代表:山本浩義さん

【§3. 結果だけでなく、成長の過程に価値を見出して欲しい】

◎指導者で一番大切にしたいことは「パーソナリティ」

昌邦:ちょっと話は変わるんですが、指導者として必要な資質についてお話を伺いたいと思います。クラブで優秀な指導者をたくさん抱えているわけですけど、社長だから優秀な指導者を集めてこないといけない。選手を育てるだけじゃなくて。選手を育てるために優秀な指導者が必要なわけですよね。優秀な指導者をピックアップするポイントっていうのは何かありますか。

浩義:基本的に僕らの指導というのは、小さい世代から入ってきた子どもたちが対象となります。だからこそ、一番僕が大事にしているのは、初めに会ったときの印象や、その人間性といったものです。言い換えると、パーソナリティを一番に考えています。

昌邦:パーソナリティ。

浩義:パーソナリティが、まず大優先順位の一番。

昌邦:一番上にパーソナリティが来るのね。その人がポジティブであったりとか。二つ目は、やっぱりそれぞれ専門的な知識があるということですか。

浩義:それはもちろん必要です。

昌邦:専門的なことは子どもよりも何十倍も知ってなきゃいけないわけで。

浩義:特に6歳とか8歳とかの子どもたちを教える指導者っていうのは、専門性というよりも、本当に子どもが好きとか、そういった部分の方が多いんですよね。

昌邦:それはコミュニケーション能力であったりとか。

浩義:そうですね。

昌邦:子どもの頭の中を想像できなきゃいけないわけで。

浩義:そう。まして、自分をそこまで落とさなきゃいけないので。そうやって、子どもの世界に入って行けるかどうか。ある程度年がかさんで、15歳くらいになってくると、より専門性が強くなってきます。その世代を教えるとなると、やっぱり専門的に長けた指導者が必要になります。でも、下に行けば行くほど…。

昌邦:年齢が、低ければ低いほど、指導能力が問われる訳ね。指導能力というか、接する能力というか、子どもの心を掴む能力

浩義:そうです。

昌邦:その子どもを掴む心、例えば幼児教育のノウハウとか、能力とか、知識がないとそこは無理なわけだね。ただ、選手やっていたというだけじゃ。そういうのを視点に、指導者を選んでいると。だから、パーソナリティが一番大事って言ったけど、次にそれぞれの専門知識。テニス、新体操、バレー、サッカーと来るわけですけど。そこの一番下のとこの指導能力みたいなところは、子どもの心を掴んだり、子どもが何を考えているかをしっかりと感じてられるような力が重要になってくる。そこがやっぱり重要な三本柱って言っていいのかな。

◎一人ひとり違う「心の豊かさ」への気づき

昌邦:最後に、子どもたちが豊かな心を持てるようにするために、大人、指導者や親がどのようなことをすべきなのか。今まで話してきたことの総まとめみたいな話になるんですけど。やっぱり、自分の意思でやることは疲れない。日本代表になろうと思ったら、それは苦労も多いし、頑張らないといけないことも、たくさん乗り越えなきゃいけない壁や山も一杯来る。でも、それを乗り越えていくためには自分の意思が重要になる。自分の意思でやることは絶対疲れないから。そうなりたいと思ったら、歯を食いしばってみんな頑張るけども、やらされて「こうなりなさい」なんて言われている程度じゃ、日本代表なんか間違ってもなれない。そこを目指す過程の中で全ての子どもが日本代表にはなれるわけではないし。その中でそれぞれが成長することが財産だし、一つの人生の成功だと思う。それの基準というのが、豊かな心のような気がするんだよね。

浩義:そういった意味では、うちのクラブは、本当にハイレベルな子から、そうじゃない子までたくさんこう抱えているので。

昌邦:底辺が広いからね。2,000人もいるわけで。

浩義:我々の仕事っていうのは、全ての子を全員成長させることなんだという共通意識をスタッフが持っています。だからこそ、勝つことじゃなくて、成長させるっていうことが俺たちの仕事だぞと。子どもが持っている目標点は、各々によって違うかもしれない。その子どもたちが持っている目標に対してどれだけ伸ばせるのかということが、我々の仕事なんです。だから、それに対して子どもがどう取り組み、楽しくやっているのか。目標を持って臨んでいるのかが重要なポイントになってきます。

昌邦:そこは、自分の意思でやっているのかどうか。やらされているんじゃなくて。目標を持たせた上で、目標に、苦労もあるんけど、自分の意思で乗り越えていくというアプローチですよね。

◎良いグルーピングが子どもの成長を促す

浩義:それが故に、ある程度のところまでくると、サッカーで同じ位のレベルの子たちで、グルーピングしていくんですよ。

昌邦:ほぉ、なるほど。

浩義:それが例えば、すごい能力の高いところに、一人ぽつんと能力のない子が入っても、もしかしたら、

昌邦:つらいもんね。

浩義:勝つかもわからない。10対0で勝つかもしれない。でも、ボールに触る可能性は1回だけ。それじゃ、楽しくないわけですよ。別のチームで、10対0で負けるかも分からないけど、「お前がキャプテンとしてチームを纏めろ」の方が、はるかに僕はやりがいがあると思っています。

昌邦:子どものモチベーションは上がるよね。

浩義:10歳、11歳くらいになったときに、レベルに即したグルーピングを行っていく。はじめの頃に話しましたが、三年生くらいまではそういうことはせず、まずは楽しみながら体を動かすということを重視しています。

昌邦:グルーピングをしっかりしていくというのは、良い競争を生み出すための手法だよね。テクニックみたいな。

浩義:そうです。後は、やりがいを子どもたちに持たせる。

昌邦:それを何歳から分けるって言ったっけ。

浩義:今は、だから、四年生になるときになので、10歳。

昌邦:四年生くらいのときから、段々グルーピングを考えて、それぞれの良さが出るグルーピングをしていくと。

浩義:そしてなおかつ、中学生の強化のところは、自分たちが育てた子の「Aランク」プラスこの地域の中の「Aランク」の子もピックアップしてくるので、かなりここは強いですね。

昌邦:レベルが上がってくる。地域が広くなるということね。それによって競争のレベルを上げていくと。

浩義:ただ、僕らは、本当にクラブのあり方も大事にしてかなきゃいけないと思っています。ずっと育ててきた子たちもクラブにはいます。中学校のところでは、そうやって強化を目的として地域も巻き込んで作るチームと、うちの下から育ってきた子たちで作る中学校のグループもあります。逆にここには、よそから入って来ることができないようになっています。ここの子たちも、数がすごく多くて。ここでもちょっとセレクションをやらなきゃならなくなっちゃっています。でも、ここに落ちた子も何か面倒見ろって言って、中学校の子は三段階で受けているんですよ。

◎サッカーを通して、心豊かな人間に育ってもらいたい

昌邦:でもね、サッカーの視点だけで見ると技量が高い、優秀だって言われている子が、必ずしもトップに行くとは限らない。こちらのグループとかあちらのグループにいる人が、トップチームに行くなんていうのは、良くあること。私が大学時代、国士舘大学のサッカー部では、試合に出るのは11人しかいないのに、部員が200人もいて。Aチーム、Bチーム、C1、C2、C3とかにグルーピングされていました。一年生で入ったときにC3にいた子が、卒業の四年の時にはスタメンでレギュラーをはっていたというのは良くあるケースで。本田圭佑とか、中村俊輔とかも、ジュニアユースのときは各クラブにいたけど落とされたわけよね。でも、高校に行って、高校選手権で、高校三年間頑張った結果、プロとして、日本代表としてやれたわけで。そういう良いグループを作ってやることで、一度スピードダウンするんだけど、そこによって自分の意識がまた変わって、余裕があるから自信を持って上手になってそこに戻ってくる。そうした環境を、もっと多くのところで作ってもらいたいと思うんだよね。

浩義:なので、我々としては中学校を卒業して、高校へ行ったときに他のクラブから来た生徒や顧問の先生に「おまえよくサッカー知ってるな。どこでやってたんだ」って言われるようになりたいし、生徒が誇りを持って「アスルクラロでやってました」と答えてもらえるようにしたい。そして違う環境に行っても、順応できるような選手の育成を目指していきたいと思っています。ただ、サッカーはさっきも言ったように、みんながJリーガーになれたり、日本代表になれるわけではないので、我々としては、アスルクラロに関わった子供たちが、将来社会人になって、またこのクラブに帰ってくる。そして、ここでサッカーを楽しんだり、あるいはそうした子供たちが指導者になってくれると嬉しいですよね。それは別にトップ選手じゃなくてもいいわけで、Cチームにいた子でもいいんですよ。このクラブに愛着を持ってもらえるように、そういったスポーツに関われる環境と人材育成をたくさんしていきたいと思っています。

昌邦:それは、まぁ、家族への愛情があって、地域への愛情があって。その地域への愛情の一つが、自分がここで育ったっていうクラブへの愛情に繋がってきて。それがみんな大きくなっていけば、日本をみんな愛して、世界とどう戦っていこうかっていうようなことになっていくような、豊かな心を是非、持ってもらうっていうのが重要な視点だと思うんですよね。

浩義:そうですね。

昌邦:成功っていうのは、その子たちがどれだけ自分のMAXまで伸びたかっていうことなんじゃないだろうか。振り返ったときに、このクラブにいて、こんなに心豊かになれた。サッカーとしては日本代表になれなかったかもしれないけど、そこを目指したり、そういう環境にいることで、素晴らしい仲間と、素晴らしい心を育てることができたと思ってもらえたら嬉しいことだね。地域が明るくなるよね。

浩義:うちのクラブの良いところとして、同学年にすごい数のメンバーがいるわけですよ。4チームくらいあるから。

昌邦:小さな小学校よりもあるから。

浩義:そうなると、色んな違う地域の子たちと、子どもたちと交わることができるわけです。あるとき、僕がちょっと街にいたら、(学校が)全然違う子たちが一緒に遊んでいて。あっ、サッカーを離れても、友達なんだな、って。

昌邦:友達の幅が広がるね。一つは学校で、一つはクラブだっていう。そういった利点を活かすっていうのは。

浩義:そういうのはすごい良いなって、思ってますね。

昌邦:是非、良い選手もそうなんだけど、あそこのクラブに行くと、やっぱり人間としてすごく立派だよねって、思ってもらえるようなクラブになってもらえばと思いますけどね。

浩義:そのためには、指導者が良い鏡になることが必要です。子どもは良いけど、指導者はダメだよねだったら、それはまずいですからね。

昌邦:指導者の資質というか、指導者のクオリティをどう上げていくかっていうこと。

浩義:後は、子どもの育成は三位一体で行っていくものなので、保護者の方へのアプローチもしていかないといけないし、保護者の皆さんにも、協力してもらいたいですね。

昌邦:親ね。親目線で、子どもと親と指導者というこの三角関係を上手くバランス良く整えると。ちょっと今日は話が聞き切れないんで、指導者の話を今日聞いたんで、今度、親の話とかを、親がどうあるべきかっていう、多分クラブでも、親へのレクチャーとか、講義とか講習会も定期的に開いていると思いますので、そんな話もまた取材できたら良いなと思いますんで。

浩義:分かりました。

昌邦:ありがとうございました。

 

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