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ボール→ゴール→ボール

狙いを持ったシュートには次のようなものがあります。
(1)コースを狙う。
(2)GKのタイミングをはずす。
(3)GKの逆をとるなど。そのためには、GKの動きをよく観ることが必要。

この狙いを持ったシュートの決定率を上げる為には、ボールをしっかり見て、ゴールを確認し、またボールを見てシュートするという作業を一秒以内に、正しい判断で行わなければなりません。この流れの精度を高める事が必要なのです。

近代サッカーのゴール前は、常にハイプレッシャーの状態にあります。そんな状況の中でも冷静にゴールキーパーのポジション、動きを確認し、最後はしっか りとボールを見て、狙いを持ったシュートを打つことが大切なのです

シュートをワンタッチで打たなければならない時には、ボール・ゴール・ボールの確認を瞬時に行わなければ、狙いを持ったシュートは打てなくなってしまい ます。ワールドカップでのゴールの内、約70%は1タッチシュートであるわけですから、この確認から判断・実行に至る作業について、質を向上させる、ス ピードアップさせるトレーニングを行うことが、シュート決定率の向上の為には大切だと思います。

そういう意味ではGKのいないゴールへのシュートは、シュートを打つ選手の判断力を向上させる為には、不足している物が多いと言えます。

得点に至る攻撃時のパスの数

2002年ワールドカップでの1つのデータです。

パスの数
得点数
比 率
前回大会( 98年)
0
7
6.4%
6.8%
1
15
13.8%
10.7%
2
23
21.1%
14.6%
3
22
20.2%
18.5%
4
13
11.9%
13.6%
5
8
7.3%
8.7%
6
8
7.3%
3.9%
7
2
1.8%
5.8%
8
4
3.7%
3.9%
9
0
0.0%
3.9%
10
1
0.9%
3.9%

上記は得点に至るパス数を表にしたものですが、流れの中の得点をパス数で分析していくと、得点の60%は3本以内のパスであることがわかります。前回(98年フランス大会)は50%でした。これらの数字からも、一瞬の隙をめぐる攻防が見られた大会であったことがわかるとともに、年々この傾向が進んでいることも証明されています。

またこれらの攻撃開始位置を分析しますと、アッタキングサード21.1%、ミドルサード45.0%、ディフェンディングサード33.9%となります。要するに相手ボールを奪った位置、もしくは相手のミスからマイボールになってからの攻撃開始エリアは約80%がミドル及びディフェンシブなエリアからスタートしていることも参考にしていかなければいけないデータでしょう。

攻撃しながら守備のことを考え、守備しながらも次の攻撃を狙っているような、先を読む判断力やコーチング能力育成の必要性を感じるようなデータです。もっとも、パスを何本つないでもそれを得点につなげられたら最高ですが。

85%のゴールは、2タッチ以内のシュートから

ワールドカップにおいて、流れの中で得点された109点の内、75点が1タッチ、18点が2タッチから生まれています。このデータから、約85%のゴール は2タッチ以内であることがわかります。シュートレンジでのスペース・時間といったものが、如何に減少しているかがうかがえます。

ゴールを奪うためには、常に相手ゴール方向に対していい視野、体の向きをつくる、スペースを有効に使うためのオフ・ザ・ボールの動き出しが大切になりま す。ゴールの位置、ゴールキーパー、相手ディフェンダー、有効なスペースといった情報を瞬時に把握することが、ゴールを奪うためのシュート精度を上げるた めに必要な条件です。

ワールドカップ第一戦、ベルギーから奪った鈴木選手の1点目ゴールは1タッチ、稲本選手の2点目ゴールも2タッチしかしていません。稲本選手の2点目 ゴールは、ボールを長い距離運びましたが、ボールには2回しかタッチしていません。タッチ数が少ないと、ヘッドダウンが少なく視野が広くなりいい判断につ ながります。

少年時代、中盤から何人も抜いてゴールを奪える選手をいいストライカーだと育成しても、ワールドクラスでは息詰まることになるでしょう。スピードあるパ スをワンタッチでシュートしたり、スピードに乗った状況でも自分のスピードを落とさずに確実にトラッピングをする才能を育てていくことが、ワールドカップ で活躍できる選手の育成と言えるでしょう。

ワールドカップなど世界最高水準のプレーから逆算して、どのような才能が生きるのか、どのような才能を生かすことができるのか。指導者のタレント発掘の目も大切です。

攻守15秒の質

流れの中の約75%のゴールは、相手ボールを奪ってから15秒以内のものです。

ゴールを奪うためには、ボールを奪ってから相手の守備組織が形成される前に有効な攻撃をする。それが得点率を向上させるために必要です。

逆にボールを奪われてからは、相手の攻撃に時間をかけさせ15秒以上の時間を使わせれば、守備組織は整い、失点率を下げることができます。
ボールが奪われた瞬間、もっと言えばボールが奪われる何秒か前のプレーの予測や判断力といったものが切り替えの早さにつながります。このような判断力の育成を実際に意識させ向上させていくことが、サッカーの大切なトレーニングの一部です。

私はタレントを発掘する時、技術はボール保持を見ればわかりますが、ボールを持たない時の判断力を、選手の最も大切な可能性を探るものとして注意して見ています。要するに、プレーそのものを見ているのではなく選手の頭の中を見ていると言っても良いと思います。

攻撃は、ゴールを奪うこと。
守備は、ゴールを守ることではなくボールを奪うこと。

ゴールを守れる選手よりボールを奪うことができる選手の方が質が高いと言えます。
相手ボールと自分達のボールの間の時間の判断力を向上させることが、『攻守15秒の質』を向上させるために欠かすことのできないトレーニングです。

マスメディアと若い選手

ワールドカップを経験できる選手は23名の登録メンバー。更にピッチで経験できる選手はその中の75~90%程度でしょう。一方で、4年に一回の開催であ るワールドカップで、10年以上にわたり代表メンバーに入っている選手もいます。サッカー人生の中で、ワールドカップのピッチに立つこと、そして勝利を手 にすることは誰にでもできることではないのです。私は指導者として、多くの選手に夢の舞台での経験を積み上げてほしいと願っています。サッカープレーヤー としてだけでなく、人生において価値ある財産になるから・・・。

大きな大会の前になると、報道の過熱により本人の意思とは関係なく評価・注目を浴びます。大げさな取り上げられ方をされたり、スター扱いされてしまいま す。特に、若い選手が実力以上の評価をされてプレーに集中できなかったり、勘違いをして努力を怠るようなことが起こると成長は止まってしまうものです。こ れから伸びるチャンス、タイミングであるのに残念な話です。若い選手を育てるためには、このようにピッチ内だけではなく、ピッチの外や社会の中でも厳しい 基準で育てていく必要があります。

マスメディアの方には、世界基準を物差しにして選手の評価をしていただき、将来のために愛情と厳しさを持って接していただきたいと思います。チームだけ ではなく、サッカーを取り巻く環境全体が世界基準に近づくことができなければ、ワールドカップで更に上を目指すことは困難になってしまうでしょう。

正しいプレーの評価基準を持たずに、選手を過大評価しスターを作り上げてしまうことは、将来的にサッカー界全体の大きな損失です。是非、プレーの質を評 価の対象に、どしどし記事を書いてほしいと思います。

勝ち続ける組織は継続的に新しい環境に適応する

常に勝ち続けると、どこかにスキが生まれたり意欲が低下したりする。つまり、勝ち続けることに対する適応能力が求められるのである。勝ち続ける状況の中 で、環境の変化に対応したり、新しい組織を作ることが必要になってくるかもしれない。既存する完成されたものを常に新しくしていく、新たな発想・創造力が 必要になってくる。

ワールドカップの頂点は、世界一の高い山。
ここにたどり着くまでには、多くの失敗が待ち構えています。この本質を追求し、次に生かすことが我々の仕事だと思います。小さな山では気づかない些細な ことが、世界の高い山では大きな失敗を招くことになります。これらの経験が必要なのかもしれません。小さなプレーの価値を世界基準で感じ、レベルアップし ていくことが大切だろうと考えます。

勝ち続けるには、日々新しい自分を作り出すような創造力が必要です。

自ら成長スピードを加速できた者が勝者となる

いよいよアテネオリンピックアジア予選が始まります。チームのレベルアップと、圧倒的な強さを他国にアピールしながら突破したいと考えています。個々のレ ベルアップなくしてチームのレベルアップはありませんから、選手たちには、自分自身を成長させる意識・意欲を持ち続ける、それを求めて行きたいと思いま す。

世界との距離をどれだけ早く詰められるか、日本代表に何才で入ることができるか、ワールドカップを何才で最初に経験するか、このスピードの差が到達点の 差になってしまうでしょう。ワールドカップに20才で出場した選手は、24才、28才、32才と4回の出場チャンスがあるかもしれません。いずれはこんな 選手が日本人にも出てくるでしょうが、このスピードの差が大きなものになるのです。20才でワールドカップを経験できた選手は、次のオリンピックにも出場 できるし、24才のワールドカップでは余裕を持ったプレーができるでしょう。

今回のオリンピック選手には、ワールドカップを経験できた選手はいません。だからこそ、アテネまでの2年間を通してその差を埋めていく必要があります。 現状からさらにスピードアップをして成長していく選手が、代表チームへ登りつめていくだろうと思います。

Jリーグでは、さらに成長のスピードを加速させてほしいと思います。

ペナルティBOX

日本サッカーが世界のトップレベルに近づく為には、ペナルティエリアで仕事ができるアタッカーとディフェンダーの育成が必要です。
ゴールの約85%はペナルティエリアで放たれたシュートから生まれます。このエリアで、確実にゴールマウスへのラストパス(シュート)が通せる技術、戦 術、体力、メンタリティといったものが大切な要素となります。

ゲームの流れの中で決まるゴールの約85%は2タッチ以内で放たれたシュートによるものです。ペナルティエリアという限られたスペースは相手のコンタク トを受けやすく、そこでの動きは必然的に制限されます。スペースおよび時間が限られ相手選手のコンタクトを受けやすいという状況において、いかにシュート を打つか?いかに防ぐか?
アタッカーおよびディフェンダーに常に与えられる課題です。

ワールドカップでベスト8、ベスト4を目指すには、世界レベルのアタッカー、センターバックを育てることが必要条件です。

ストライカーはドリブルなどのボールテクニックよりも、ワンタッチでシュートできる能力、球際の強さ、コンタクトを受けてもバランスを崩さずボールをと らえる能力といったものがペナルティエリアで余さず発揮できなければなりません。

ストライカーを育てるには、子供の頃から単に技術的側面に注目するだけでなく、このような能力を見抜き、将来を見据えて根気よく育てていく必要があるのではないかと考えます。

アテネオリンピック予選に向けて

カタール国際大会では、ご声援ありがとうございました。アテネオリンピックアジア予選がいよいよ5月から始まります。今年は、アテネへの出場権を獲得することが最大の目標になります。こちらへのご声援よろしくお願い致します。

2002年ワールドカップで得た日本チームへの評価は高いものがありました。世界中から認められた、日本サッカーのレベルアップは、これから戦うアジア 予選の仕事を、非常に困難なものにするでしょう。いままでと同じレベルでは、勝ち抜けないと考えています。相当マークされるでしょうし、アウェイでの試合 は、ピッチの外での注意も必要になると思います。また、ワールドカップの成功をふまえて、メディアやサッカーをとりまく全ての環境が非常に高い要求をする 事になっていくでしょう。これらを乗り越えることで、更に大きく成長できると思います。

経験したものにしかわからない、大きな自信を手にアテネに向かいたいと思います。自らの頂点に挑戦です。

「新年挨拶」

新年あけましておめでとうございます。
昨年は日本代表チームへの暖かいご支援、ご声援をいただき、心より御礼申し上げます。
昨年のワールドカップでの、経験と勢いを生かし、アテネオリンッピック、アジア予選を確実にそして、圧倒的な強さで、突破します。
アテネ経由、ドイツワールドカップ行きの新たな冒険の旅のスタート、ワールドカップベスト16より上の未知の世界へ向けて、一歩一歩前進していたいと思います。
本年もよろしくご支援、ご声援のほどお願い申し上げます。

山本 昌邦