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優秀な指導者の条件(2)-失敗をほめられる観察力

選手は段階的に学習してレベルアップしていくという話は以前にもこのページで述べしましたが、その過程での成功体験をどう活かしていくかも大切な部分であり、選手が正しい方向に進んでいるという事を感じさせてあげる必要があります。
ある高い目標(テーマ)に向かっていく過程での積極的なチャレンジ。それに対して起きた失敗は、次のステップへ上がる為の素晴らしい失敗であるという事を選手に伝えてあげる。

そうすることで次にも失敗を恐れずにトライする事ができます。

繰り返されるトライの中で何か良くなっている点、具体的に例えれば「タイミングのここがいい」「スピードが上がっている」「動きの方向が良くなってきている」など、何か選手の自信になるアプローチができれば信頼関係を構築していくことができます。

指導者と選手の両者がテーマとしている課題に対して、選手が挑戦した結果失敗したとします。これはトレーニングの中で意識しているから出てきた失敗であり、両者にとって大きな前進であると思います。そのタイミングをはずさずにほめる事が大切なのです。

「素晴らしい失敗だ、もっともっとトライしてみよう」

とアドバイスができれば、選手は恐れる事なく前向きにトレーニングに参加して成長していくことでしょう。課題を理解して積極的にチャレンジできるように なった段階で、少しずつヒントやアドバイスを送ることでステップアップは確実にできます。ピントをずらさずに失敗をほめる為には選手の学習の段階を十分に 観察する力が必要になります。現場で日々これらの経験を積むことで指導者もまた、その指導能力が育っていくことでしょう。

優秀な指導者は選手を成長させることができる人です。選手は失敗を繰り返し段階的に成長していきます。失敗の中の少しの進歩を的確にほめることができる観察力が優秀な指導者には必要です。

トレーニングは ステップ バイ ステップ で連続的なもの

選手は段階的に学習します。

時には停滞することもあるし、一時的に後退することもあるでしょう。トレーニングの結果として、体に新しい回路が形成される事は、重要な効果です。 また、周りからの情報を素早く分析して、頭(頭脳)からからだの各部位へ神経回路を通じて伝達させます。新しい技術を習得する時に、失敗を重ねながら少し ずつ神経回路ができあがり、太くなって一つの技術を正確に発揮できるようになっていきます。

「レベルアップの過程で一時的に後退するときもある」

特に難しい技術や戦術に挑戦する過程では、このようなことは当たり前のように起こり得る。そうしたときにどう対応するかまで指導者は計算に入れなが ら十分な準備をしておくことが重要になってくる。目標とする技術を習得する過程で一つ一つのステップごとに選手を誉めて成功体験をさせることで次の意欲が 沸いてくるのではないでしょうか。

指導者は赤ちゃんにサーロインステーキを無理やり食べさせるようなことがあってはいけません。レベルに応じたメニューを作って一歩一歩前進していくことが選手にとって最も大切なことです。

技術、戦術、体力、とメンタリティーのバランス いい選手の条件-3


試合中、ピッチ上で表現されるパフォーマンスは、表の赤い部分、技術や戦術、体力といったものが複合的にからみあって発揮されています。すばらしいスピー ドを持っていても戦術的なタイミングがよく理解されていなければ、オフサイドトラップにかかったり、ボールを受ける事さえもできないかもしれません。この 図のそれぞれの、丸の大きさが技術の部分が大きい選手もあれば、体力の部分が大きい選手もあり、それが個々の特徴になります。

 

 

「メンタリティーを高く保てる選手は伸びる」

技術、戦術、体力は、普通にトレーニングしていれば、翌日急激に落ちる事はないでしょう。しかしメンタリティーは、小さな事がきっかけで、数時間 後にゼロになってしまうことがあるようなデリケートなものです。1つのプレーミス、周りの選手との人間関係、指導者の一言、プレッシャーによって自信をな くす事もあるでしょう。また、ピッチの外の問題、学校の成績や彼女との事かもしれません。この難しいメンタリティーを常に100%に保ち続けて、レベル アップの為の努力を続けられる選手は、技術、戦術、体力も少しずつ向上していくことが可能です。メンタリティーを日々充実させ続けることがいい選手の条件 です。

中山(ジュビロ)選手は、このメンタリティーの輪が通常の方々より、かなり大きいと思います。ですから常に向上心をもって頑張っていけるのだと思います。そこには必ず目標に向かっての可能性が存在するのでしょう。

THINKING SPEED & PLAY SPEED

サッカーで一番必要な要素はスピードだと考えています。身につけなければならない能力として重要なのが、判断するスピード、プレーするスピードでしょう。素早く動く為のスピードは勿論、速いボールを蹴る為のスピード(筋力)も必要になります。

プレースピードの中味は大きく分けて、ボールスピードとフィジカルスピードがあります。、コントロールの1つ1つのタッチも自分自身へのパスですから、こ のときのボールの動かし方のスピードも重要で、プレースピードに繋がるものです。また、攻・守の切り替えを早くする為には、つぎの展開を予測する判断力と 供に、動きの方向の変化やスピードの変化といったフィジカル能力も必要になります。

判断の柔軟性や意外性、相手とのかけひきなどサッカーセンスは勿論、いいプレーをする為に重要なファクターであることは間違いありません。現代サッカーで はスペースや時間が減少してきています。センスをより生かす上で、あらゆるスピードの向上を図っていく必要があるでしょう。どんなにいい技術や戦術があっ ても、速いアプローチで厳しいプレスをされるとヘッドダウンして視野が悪くなり、いい判断ができなくなります。これではいいプレーはできません。また、ス ピードを追求していくと、技術の精度もさらに上げる必要があります。

「判断スピードとプレースピード」

この2つのスピードの向上は、現代サッカーでは最も必要で追い続けなければならないテーマだと考えています。ボール及び人の動きがトップスピードになって も、自らの能力を完全に引き出してパーフェクトなプレーができる選手の育成が、世界で勝ち抜いているチーム作りには欠かせないと思います。日本人の特性を 考えると、ボールも人も効率よく連動して素早くボールを動かしていくサッカーが向いているでしょう。

Thinking speed.
Ball speed.
Physical speed.

フィジカルテストは試験ではなく情報収集

2月8~13日までの期間を3つのグループに分けて、フィジカル、メディカルの測定を実施しました。この時期のチェックということで、ワールドカップへの サバイバル合宿とか最終試験などという表現をされましたが、ワールドカップまでのコンディションを万全にしていく為の情報収集であって、このテストで選手 を評価するものではありません。

「フィジカルテストは試験ではなく、ステップアップする為の情報収集です。」

選手個々にプレースタイルやフィジカルの特徴も違うものを持っています。また、能力を最大限発揮するのにどのようなトレーニングをすれば、より効果が上が るのか、ケガを防ぐのにどの部分の強化が必要なのかなど、現状分析を活かして改善していく事が最も重要なテーマです。すなわち、優劣をつけるものではなく 分析に役立てる情報収集であります。

選手はこうしたデータが自分自身にはね返ってきますから100%集中して最大限の値を出す事が重要です。代表の選手クラスはプロとしての自覚もしっかりあ るのでこの点は全く問題ないのですが、育成段階の選手には、こうしたデータをフィードバックしながら目標をしっかり持たせ、一歩一歩確実にレベルアップさ せてあげることが大切になってくると思います。競争ではなく自分自身をよく知るためのトレーニングだというぐらいの考え方で、過度のプレッシャーをかけな いように考えたいものです。

将来は様々なデータが公表できるようにして育成年代選手の目標作りに役立てるようにできたらいいのではないかと思います。また、ワールドクラスの選手が育 成年代の時にどういう値だったのかを公表できるようなデータがあればより理解しやすいと思いますので、データの蓄積をしていく必要があります。実際にJ リーグのクラブなどではジュニア時からデータを取り始めて、その方向性が出せるようになってきているチームもあります。成長過程の中でより効果があるト レーニングを効率良くしていく為の指標と、ワールドクラスに到達するのに不足しているものが若いうちに分かれば効果は大きいと思います。

サッカーはかけ算のスポーツ

サッカーはパスを繋ぐスポーツです。
そして最後に相手ゴールの中にパスを決めれば1点となるわけです。

1×1×1×1×1=1 5本のパスを繋いで最後にゴールにパスを通せば1点となるわけです。
しかし、1×1×0×1×1=0 パスを通していく過程で誰か一人パスミスをすれば、それは相手ボールとなり0からのやり直しとなります。
1+1+1+1+1=5 このように足し算の考え方ではなく、チーム全体が正確なパスを繋ぐことで初めて1点を取ることができます。すなわち、かけ算の考え方です。

チームで10点満点のプレーを3人がして、10×10×10となった後に0点となるプレーをする選手がいればそれは相手ボールになり、相手ボールを奪うことからやり直すことになります。また、一人がパスを出すまで の過程でのプレーでどんなに素晴らしいフェイントやボールコントロールを見せて何人抜いたとしても最後のパスプレーが相手にいってしまっては何もならない 0のプレーです。

サッカーでは自分がボールを離す時にいかに味方選手に次のプレーを有利にされるようないいパスができるかが、一つのプレーの質として問われてきます。実際 のゲームの中ではプレッシャーの中でも味方に有利になる時間やスペースを与えられるようなベストなタイミングのパスが通っていれば徐々にチームとして時間 的にゆとりが生まれ、シュートをうつ選手が余裕を持ってゴールにパスをすることができます。

パスでまず考えなければいけないダイレクトプレーの意識(ゴールに直結)ですが、このかけ算の考え方からボールをチームとして失わなければ、チャンスがまだ続いていくということも大切な考え方です。

ハートは熱く、頭はクールに(100日前)

指宿でのキャンプも無事終了し、ワールドカップへの準備も残すところあと100日となりました。サポーターの皆さんにはいつも暖かい応援をしていただき、 感謝の気持ちでいっぱいです。選手がいい緊張感と、リラックスした気持ちをバランスよくキープして自然体でワールドカップに入っていけるよう、全力でチー ムをサポートしていきたいと思います。これからの1日1日の経験がサポーター、選手、チーム、日本サッカー界、スポーツ界、政界、財界、自分自身にとって も測り知れない大きな刺激を与えてくれるのではないかと、ある意味楽しみにしています。
ドイツは「ゲルマン魂」で過去に何度も難しい試合をひっくり返して優勝してきました。
スペインは「無敵艦隊」と言われています。充実の攻撃陣と選手層、しかし無敵艦隊といえども動かすのは同じ人間です。大丈夫です。
日本には日本刀で艦隊を切り裂く心意気で立ち向かっていく強い精神力があります。世界に日本の「大和魂」を見せたい。

心はホットに熱く、熱く燃えていきたい。
一方で頭はクールに論理的に。

このバランスが重要です。
どんなに優れた戦術や技術、体力があっても、このメンタリティーがなければいいパフォーマンスは期待できません。熱く燃える日本人の心と、冷静な頭であと100日さらにレベルアップして、ワールドカップに臨みたいと思います。

いまこそドイツ対策

次回のワールドカップは、2006年ドイツでの開催が決定しています。いまこそドイツとの太いパイプを作り、4年後に生かせるよう、ピッチ外での関係をよ り強固なものにしていくチャンスです。ドイツとの交流試合は実現しませんでしたが、協会幹部レベルでのコミュニケーションを深めて、いつでも交流試合が組 めるようにしたり、ドイツでキャンプを行うことなども有効なレベルアップに繋がると思いますので、ワールドカップの闘いと並行して次の準備を進めておくこ ともまた協会の大切な仕事です。

ドイツチームのベースキャンプ地、試合会場の皆さんには是非、ドイツチーム及び関係者を暖かくサポートして頂きたいと思います。ドイツとの良好な関係を築くことが、4年後のワールドカップで大きなアドバンテージになるかもしれません。

日本にとってのワールドカップはまだ始まったばかり。1つずつステップアップしながら世界の最高峰へたどりつきたいです。そのためには、サッカー界全体のレベルアップを念頭に置いたチーム強化、目標設定を行った上での準備を確実に行うことが必要になってくるでしょう。

今の日本代表チームの80~90%は95年、97年、99年のワールドユース、アトランタ、シドニーオリンピック、’98フランスワールドカップの経験者です。このような質の高い経験を経てたくましくレベルアップしてきました。
世界基準の経験と成功体験を続けてきた結果、選手層も厚くなってきました。

将来を見越した準備をするために。
今こそドイツ対策!

トルシエも私もプロの指導者

チームを勝たせる事、これが私たちに共通する最大の目標であり仕事である。

確かに過去にはチーム内のシリアスな状況、その他様々な苦労を何度も経験しましたが、そうした障害を乗り越えて来た自信は非常に大きいものがあります。
アフリカ遠征、ナイジェリアでのワールドユースをはじめとした厳しく質の高い経験が、チームを育て、選手のメンタル面のレベルアップに大いに役立ったのは 事実です。2010年のワールドカップがアフリカで開催されることになれば、アフリカ遠征を経験した選手、スタッフにとって大きなアドバンテージとなるこ とは間違いありません。

監督も私もプロの指導者として、それぞれの立場でいい仕事をすることが最も優先されるべきことです。戦術や戦略に私の考えや色が出てしまうようでは選手は 迷います。今はコーチとしてワールドカップでの勝利の為、また、その後の日本サッカーの発展につながるような指導を行えるよう集中していきたいと考えてい ます。
また今は、素晴らしい選手達の能力をさらに引き上げ、世界に近づくこと、そして頂点を極める時までのプロセスをより具体的に築きあげる準備をする大切な時期でもあるのです。

勝利という最大の目標に照準を合わせ、選手、スタッフが常に一丸となって突き進むことができる、これがよいチームの条件です。ただ”楽しく仲良く”では結 果は伴いません。厳しさの中にも楽しさがある、そんなチーム作りが必要です。メンバーを決める際、監督は決断を迫られることになるのですが、プロとして当 然勝つための選択をするでしょう。コーチとしてメンバー23名が、メンタル面、フィジカル面を含めて常にベストなコンディションを保てるようチームを支え ることが私の最大の役目です。

日本人として、日本サッカーの発展に寄与し、代表チームを守っていくことも大切な仕事の一つだと考えています。
皆さんが日本代表チームを誇りに思い愛し続けてもらえるよう頑張ります。栄光を目指して・・・

優秀な指導者になるための条件(1)

パーソナリティ ・ 専門知識 ・ 指導能力

サッカーの指導者として日頃感じていること、心にとめている私自身の考えを、”パーソナリティ ・ 専門知識 ・ 指導能力”という3つの視点から少し述べてみたいと思います。

指導者は、選手やチームがよくなってはじめて”よい仕事をした”と評価されます。理論、説明は一流だが選手が消化・吸収できないのでは成長もないし、よい結果は出せないでしょう。
特にプロの指導者は、ユース、トップ、サテライト、ジュニアなど各レベルによって求められるものは違いますが、選手がレベルアップしていることの証しとしての結果を常に出し続けなければならないと思います。これがプロの指導者に求められる要件です。

パーソナリティ
指導者にも様々な個性がありますが、特に必要とされるのはリーダーシップです。それを構成するものには、選手をまとめる力、カリスマ性、ポジティブな思 考、魅力的な人間性などが挙げられます。これらの要素のうちどれを強く全面に打ち出すかにより、指導者の個性が形作られているのだと思います。世界的に優 れていると評価されている監督を見渡してもいくつかのタイプに分けることができます。

専門知識
専門知識は指導者として選手、スタッフ等に説明をする上で重要であることは明らかです。本、ビデオ、研修会、ディスカッション、試合の分析等を通じて学ん だことを専門知識として吸収するのです。幸いにも良質な経験を得るチャンスに恵まれた人にとって、そこで得たことというのは大きな財産になります。

指導能力
優秀な指導者になるために最も必要な能力です。
自らが持つ理論、知識を選手に理解・納得させて、選手が自主的に行動し、自分のものにできるようヒントを与えたり、選手が自分自身で考える力を育むことが 指導者の役割であると考えます。最初から答えを教えるような指導法は、常に判断力を問われるサッカーのようなスポーツではいずれ行き詰まるでしょう。指導 者には説明するだけでなく、選手を納得させる能力が必要です。それによって選手やチームがレベルアップして初めて”よい指導をした”といえるのです。心理 状況も考えずに無理やり押し付けても、選手が吸収できるかどうかは疑問ですし、受け入れられない場合もあるでしょう。信頼関係を築く方法、選手から「教わ りたい」と思われるような状況を作るテクニック、第三者を使って選手を変えていく方法など、指導者講習会ではなかなかカリキュラムされない、現場で最も大 切な”指導能力”が求められます。全体練習を充実させ、わずかな違いや課題が抽出されるような状況設定ができれば、選手の反応も出やすくなり、よく観察す ることで対応法も整理されることでしょう。

これからも選手の能力を100%引き出し、世界に一歩でも近づき、ワールドカップトロフィーを手にする時まで、プロセスを楽しみながら選手と共に成長できるよう頑張ります。