対談[1] スポーツライター:戸塚啓さん
2012年6月20日
2012年6月20日
山本:戸塚さんは、ジャーナリストという立場から、日本代表の試合をはじめ、ワールドカップという世界最高峰のレベルに試合を観戦されていらっしゃいます。そんな戸塚さんの目から見て、日本が世界に追いついていくためのアイディアであったり、世界との基準の差であったり、気づいていることがあれば、教えてください。
戸塚:山本さんの取材を通して感じていることなんですけど、メディアの人間がどういう情報を発信していくのかが、すごく大事なことだと感じています。
山本:なるほど。
戸塚:情報を伝えるというのは、選手のコメントを聞いてそれを書くだけ、協会の発表を聞いて書くだけではいけないと思います。海外のメディアを見ていると、もっと独自性であったり、問題意識であったりが見えてくるのですが。我々(日本のメディア)は、まだちょっとそうしたところのアンテナが鈍いのかな、って気がしますね。
山本:そういう意味では、視聴者の人の多くが、生でワールドカップのスピード感とか、映像に見えない部分の戦いとかを目にする機会は少ないでしょうからね。記者会見なんかでは、例えばブラジル対オランダの試合の前に、記者の人が、ブラジルのドゥンガ監督に、とんでもない質問してきたり、剛速球投げてくるような質問をしてきたりして。そういうところすらも、戦いなんだなって。
戸塚:そうですね。海外のメディアというと、どうしても、どこどこのメディアが、誰が移籍するだとかを書いている、飛ばし的な記事のイメージがあるのかなと思います。でも、実際には、山本さんが今おっしゃったように、ワールドカップとか世界のトップレベルの試合に行くと、メディアのレベルの高さを実感します。
山本:選ばれた人しかAD(=Accreditation Card)を発行してもらえませんからね。
戸塚:質問のやりとりも、今話してきたように、直球であり、真剣勝負であり。直球どころか、この辺の胸元をえぐるようなボールが、バンバンかわされていきますもんね。
山本:だから逆に、その相手のオランダの記者が、ブラジルに、ドゥンガに、例えば冷静で居られなくなるような質問をガーッと投げてきて、イライラさせるとか。それによって、何か引き出すとか、相手が普段の状態じゃない状態に持っていくとか。まあ、それすら戦いっていう感じがするんですよね。
戸塚:よく僕たちは、オフェンシブな選手が横パスばっかりすると、仕掛けてないとかって書いたりするんですけど。山本さんとお話をしていて、自分自身も仕掛けが足りないな、と思いました(笑)
山本:(笑)
戸塚:やはり、外国のメディアの方は、もっともっと自分たちから仕掛けていくことで、話を転がしていったりしているんでしょうね。しかも、それが建設的な意見の交換に繋がっているんだなって、今、改めて思いました。
山本:例えば、チャンピオンズリーグの決勝とか、スペインのリーガの決勝のような大一番になると、モウリーニョが、一週間前とか、二週間前から、相手を挑発するんです。(二週間とか前から)駆け引きが、始まっているんですよ。例えば、(試合の)一週間前に、バルセロナはいつも11人で戦っているけど、(対戦)相手は10人になっているケースが多いとか、審判に剛速球をぶつけていくんです。そういうことすらが、全部戦いだっていうところがあると思うんですね。プレーのクオリティ以前に、(実力を)出させない。そういうことで言うと、審判を巻き込んでの戦いって言えると思います。メディアを通して、そういうことを発信していくわけですからね。日本がこういうレベルまで高まっていくためには、メディアの皆さんのクオリティとか、サッカーに対する思いとか、ポジティブにサッカーの未来を考えてやってもらうことが重要なのかなって思いますね、
戸塚:そうですね。山本さんが、ワールドカップ予選は難しい戦いで、ピッチの中はもちろんですけど、ピッチの外も戦いがあると、いつも仰っているじゃないですか。もちろん、ワールドカップだけじゃなくて、オリンピックなんかもそうでしょうけど。その戦いの中には、監督や選手だけじゃなく、我々メディアも含まれているんだなって思いましたね。
山本:記者会見とか、監督のインタビューとか、色々ある訳ですけど。その会見を聞いていて、この人上手いな!とかって人、いらっしゃいますか。
戸塚:いますね。日本人の中にもいらっしゃいますが、外国、さっき名前が挙がってたモウリーニョさんですとか、あるいは、みんなが良く知っているところではベンゲルとか、ファガーソンなんかもそうですかね。
山本:上手いですよね。
戸塚:モウリーニョがプレミアにいた時の、ファガーソン、モウリーニョ、ベンゲル辺りの駆け引きなんていうのは、非常に面白かったですね。意図的なやりとりが。
山本:ベンゲル、ファガーソンが、あれだけ70(歳)になっても、現役で、情熱を持ってやっている。しかも、話の一つ一つに奥が深くて、メディアを通して、実は選手にこれを伝えてよだとか、これ多分サポーターに言っているんだな、とか。あるいは、相手の監督を挑発してるんだ、とか。そういうのを感情的なフリはしているけど、ある程度したたかに計算して話しているような気がするんですよね。そういう上手さっていうのは、あると思うんですよね。どうですか。
戸塚:それ、絶対にあると思いますね。それこそ、山本さんが作ったチームとか、西野さんも、西野朗さんがやっていたチームとかではそうでしたね。代表っていうのは、一緒に集まる頻度が少ないだけに、そういう(メディアを通した)情報の発信の仕方なんかも大事なんじゃないですか。メディアを上手く使って、こう、監督なりコーチの意図を伝えるとか、大事なんじゃないですかね。
【§2. 信頼できる人間関係が次のステージへと引き上げる】に続く